「木の割れって怖くない?」-割れと強度の関係性について-

※第1回Zoom勉強会資料

【木材と割れ】

さて木材と割れとの関係については、昔から色々と対策が講じられてきました。特に芯持ち材については、必ずと言ってもよいほど割れが生じます。それを防ぐために、あえて一番被害の少ない箇所に背割れを入れて他の箇所への割れを回避した訳です。

なぜ背割れと呼ぶかは、この図のように木の背中部分に鋸で人工的な割れを作った事に由来します。木の背中の部分にはアテがあり、化粧で使うには不向きな事からこの箇所に入れられるようになりました。

さて本題に戻りますが、木の割れは強度に関係ないのか?についてです。我々も良く耳にする説明に、「昔から柱に背割れを入れて使用しているので、強度については実証済みです!」

この説明を聞いた時、納得される方もあるなら不思議に感じられる方も多いとは思いませんか?たまたま背割れの柱で家の構造は保持されてきたけれど、本当は背割れがない方が強いかもと感じる方は少なくないはずです。

【木の構造】

ではまず木の構造についての説明ですが、この絵をご覧ください。

木には導管が通っており、それがストローに似ています。一本のストローだけであれば、いとも簡単に折れ曲がってしまいますが、何百本も束ねた場合には強度が格段と増すことはご理解頂けると思います。

そしてこのストロー全体が束ねてあれば、個々が接着されてなくても同じ効果が得られるのです。つまりストロー同士が緊結されず、自由に動ける状態を背割れと考えれば納得がいくはずです。木材乾燥時に発生する干割れも同じく、繊維方向にしか生じず、ストローの原理が当てはまります。ただ同じ割れであっても繊維を破断するような割れ、例えば雪折れであるとか風倒木のような場合には当てはまらず、使用には要注意です。

今までの内容を実際に試験した結果がこの表のようになります。

背割り加工がヒノキ正角実大材の座屈、曲げ及びせん断性能に及ぼす影響

ヒノキ正角実大材(10.5㎝角)の背割り深さ(材面幅に対して30及び50%)及び荷重面に対する方向が、座屈、曲げ及びせん断性能に及ぼす影響を調査した。座屈性能、曲げヤング係数及び静的曲げ試験における比例限度比は、背割りの有無の間で有意な差は認められなかった。(一部抜粋)」

このように書かれています。つまり干割れしていようが背割れがあっても、強度は落ちないという事が言えます。また面白いことに、割れのある材の方が、割れの無い材よりも強い傾向にあるようです。

【横架材】

次に横架材についてですが、「曲げ強さ」と「曲げヤング」によって強度を表せます。こちらも林業センターにおいて破壊試験が行われた結果について書かせて頂きます。

このような機械で、割れ有り材と割れ無し材の破壊試験が行われました。

【木材工業文献vol.48より抜粋】

2.1干割れの曲げ強さに及ぼす影響

干割れが顕著なほど曲げ強さは高い傾向を示している。干割れによって縦断面が大きく欠損した材であっても、曲げ強さが低いとは言えず、むしろ干割れを生じやすい材の曲げ強さは、材質的に高いことが示唆されたものといえる。(一部抜粋)

2.2干割れの曲げヤング係数に及ぼす影響

曲げヤング係数に対しても干割れを生じやすい材の方が高い値を示す事がかなり明確に示唆されている。このことは、材が変形しやすいほど表面割れが発生しにくいとされている。(一部抜粋)

以上の事から木の割れは強度の低下の要因にはならず、驚くべき事に干割れ材の方が強い傾向にあると言える事です。

お施主様やお客様から、「木が割れていても大丈夫?」の問いかけに対して、自信を持って「大丈夫!」とお答え頂けると思います。割れている方が強度は高いと答えるのか答えないかはそれぞれの判断ですが、試験データが示す数字が何よりの証拠と言えるでしょう。ぜひ今後の参考にして頂けたら幸いです。

なお今回の資料作成にあたり、日刊木材新聞様、栃木県林業センター様、田村材木店様の資料を基に作成させて頂きました。ご報告と共にこの場を借りて御礼申し上げます。